一般社団法人 出版文化国際交流会 Publishers' Association for Cultural Exchange (PACE), Japan 本文へジャンプ


第23回ドーハ国際図書展

報告:岡田 智武(慶応義塾大学出版会)



名  称
23rd Doha International Bookfair
会  期
2012年12月12日(水)〜22日(土)
会  場
ドーハ展示場
(Doha Exhibition Centre)

はじめに

 「第23回ドーハ国際図書展」は、カタール文化・芸術・遺産省主催の下、2012年12月12日(水)から22日(土)までの11日間の日程で、カタールの首都ドーハにあるドーハ展示場(Doha Exhibition Centre)で開催された。時間は午前の部が9時から13時まで、そして午後の部が16時から22時までである。ただし金曜日はカタールにおける礼拝日であるため、午後の部のみの開催であった。

 

カタールについて

 カタール(The State of Qatar)は、国土11,437平方キロメートル、秋田県とほぼ同程度の大きさである。アラビア半島東部に位置するカタール半島のほぼ全域を領土とする半島の国家であり、アラビア半島から約160kmペルシャ湾(アラビア湾)に突き出している。南はサウジアラビアと接し、北西はペルシャ湾を挟んでバーレーンに面している。東には同じくペルシャ湾を挟みUAE(アラブ首長国連邦)があり、UAEのドバイまでは約380kmほど、東京・名古屋間くらいの距離である。

 日本との時差は-6時間。夏季 は4月〜11月頃まで。その時期は日中平均気温が約42℃となるようであるが、訪問した時期の12月は平均25℃前後。日本での秋の初めあたりの気温で、スーツの上着を着ていてちょうど過ごしやすい気温であった。

 

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 人口はこの1年間に急増し、約184万人とのことである。鹿児島県の人口と同程度、札幌市よりは少なく神戸市の人口よりは多いくらいであろうか。しかし、狭い国土に莫大な天然ガス(埋蔵量世界第3位)と石油(埋蔵量世界第13位)資源を有するため、カタールにおける国民1人当たりGDPは、2011年に約11万米ドルと世界第1位である。これは日本の約2倍半であり、しかもこの数値は外国人労働者を含めた全人口のものであるというから驚きである。

 カタールはこうした豊富な天然資源を背景にして世界経済危機後も急速な発展を遂げている。首都であるドーハには高層ビル群が建ち並び、現に私が滞在したホテルの周りも、24時間体制でビルの工事が進められ、また海上に巨大な新国際空港の建設も進められていた。2022年にはサッカー・ワールドカップの開催も決定しており、今後10年間で1400億米ドルを大型インフラに投入する予定であるという。まさに急成長の只中にある国家ということができよう。
 しかしこうした経済力だけではなく、小国ながら外交にも非常に力を傾注している。図書展が開催される数日前まで、第18回気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)がドーハで開催され、2012年だけでも大型の国際会議が3件も開催されているほか、中東の紛争解決においても、「アラブの春」以降、さらに積極的な外交を展開をしている。また教育・スポーツにも大変な力を入れており、広大な教育都市を造り、欧米の有名大学を数多く誘致している。実際に図書展に来場された方々は、非常に流暢な英語を話される方ばかりであった。


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 日本ではカタールの首都=ドーハという認識は、なかなか持たれていないのではないだろうか。よく知られているのは1993年のサッカーワールドカップ予選「ドーハの悲劇」であろうが、中にはドバイ(UAE)とドーハを混同しておられる方もやや見受けられるように思う。著名なアラブ系メディアである「アルジャジーラ」(Aljazeera)の名前を知ってはいても、それがカタールとはなかなか結びついていない感もある(ちなみに、本図書展にはアルジャジーラのブースも出展されていて、非常に綺麗なブースに、デザインも秀麗なアルジャジーラ関連のグッズが販売されていた。カタール関連のブースは、すべて白色系で統一されていて、ライトアップもなされていて非常に美しいブースばかりだった)。

 しかし、2011年の東日本大震災発生の直後、カタールからあらゆる支援を表明する用意があるという申出をいただいたことは、決して忘れてはならないだろう。日本国内での電力不足の解消に向け、カタールガスを通じ日本への液化天然ガス400万トンの追加供給を受け、またハマド・ビン・ハリーファ・アール・サーニー首長が、総額1億米ドルもの巨額の寄付をするという決定をされている。そして、たくさんのカタールの方々から多くの励ましのメッセージと多くの寄附金が寄せられた。そしてこの図書展を通じて、カタールの皆さんは日本の文化に、そして日本自身に大変な興味と親しみを持っているように私にも感じられた。ホテルや図書展など様々なところで、昨年の大地震は本当に痛ましいと声を掛けられたことは付言しておきたい。

 

図書展概要

 2012年は日本カタール外交関係樹立40周年という特別な年でもあり、この第23回ドーハ国際図書展に、日本はゲスト国として招待された。在カタール日本国大使館は、この40周年の最後を飾る記念行事として、独立行政法人国際交流基金、出版文化国際交流会(PACE)と共催で日本ブースを出展し、日本関連図書の展示、書籍の販売(紀伊國屋書店ドバイ店)、そして様々な文化イベントを実施した。特に文化イベントは、今回の日本ブースの目玉と言ってもよいものであった。
 初日のオープニング・イベントには、カタールのクワーリー文化大臣が会場に来訪され、日本ブースでは筆で「久和利」と書いた色紙と日本書籍を贈呈。その後各ブースを訪問されていたようであった。

 

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 ドーハ展示場は広さ約10,000m2。中東以外の国では、日本、アメリカ、フランスの大使館からの出展があるのみで、大半が中東諸国からの出展であった。英文の書籍は比較的少なく、会場の大半はアラビア語書籍がならび、小説から専門書までと書籍の種類は日本と変わりない。コーランの専門店も多々あったのが印象的であった(どこもだいたい専用の書見台と一緒に並べてある)。また、教育に力を入れているのが象徴されるように、教育関連のブースがかなりの数出展されており、書籍はもちろん、文房具・教育関連グッズも数多く展示販売されていた。朝は社会科見学の生徒さん達(共学もあるようだが、基本的には小学生から男女別の学校とのこと)、午後は子供連れの家族で大変に賑わっていた(特にお休みの金・土曜。結構な遅い時間まで小さい子供と一緒に出かけているので少し驚いた)。展示場の隅の一角には、なぜか電子製品やおもちゃ、ゲームも販売されていたが、ここもいつも結構な人だかり。およそ会場の右半分弱がこうした教育・玩具関連で、左半分の比較的まじめな書籍(アラビア語が解せないため推測ではあるが…)のコーナーよりも、こちらのほうが連日人が多いように感じた。日本でブック・フェアというと、やはり出版社や書店関連の方の来場がメインのように思うが、カタールでは一般の方がまさにフェアを楽しみに来場しているという感じを強く持った。

 

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日本ブース概要

 日本ブースの面積は、例年18m2程度とお伺いしたが、今回はなんと10倍以上の200m2。常時30名ほどで全体の運営に当たった。ドーハ展示場の中央出入口を入ってすぐ正面右にカタールのブース、そして正面左が日本ブースであり、ゲスト国として最も目立つ位置に設営させていただいた。
 日本ブースは、目的に合わせて200m2が更に3つのブースに区切られた。展示場出入口側に国際交流基金・PACE共催の日本関連図書展示ブース、その隣に紀伊國屋ドバイ店からの書籍販売ブース、そしてこの2つのブース背面に、文化イベントブースであるステージが設けられ、連日各種イベントが開催された。この文化イベントはかなりの好評を博したので、詳細をご紹介しておきたいと思う。

 

日本ブース(1)―文化イベントブース

 午前の部は、学校の社会科見学の生徒さんの来場が多かったので、コンテンツメディアプロデューサーである、櫻井孝昌氏の「子供向けポップカルチャー講座」。これは金曜日と15日を除いて会期中連日行われた。映像を交えながらとても楽しくお話しされるので大変な好評であった。しかし、櫻井氏の講演は午後の部もある。会期も長いので、正直すごい人だな…という感想である。

 

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 来場者の多い午後の部は、門司健次郎大使と櫻井氏の「文化外交講演」が行われ(20日)、株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長・東京大学特任准教授でもあるロボットクリエーター高橋智隆先生による「ロボット講演」も行われた(14・15日)。高橋先生は、PanasonicのCM「エボルタ・チャレンジ」に出てくるロボットを作られた方である(グランドキャニオンの断崖絶壁を小さなロボットがロープで昇るCMを覚えていらっしゃる方も多いのでは)。実際にロボットが動くと観客席から大歓声である。次の日、現地の新聞にも写真入りで大きく紹介されたほど大盛況な講演であった。

 そしてほぼ連日行われたのが、櫻井氏プロデュースによる日本のポップカルチャー紹介講演の数々。櫻井氏の「ポップカルチャー講演」(初日・金・土曜除く連日)をはじめ、上坂すみれさんによる「声優トークイベント」(15・16日)、コスプレデザイナー神奈さんよる「コスプレショー」(14・15日)、元カワイイ大使青木美沙子さんとファッションデザイナー川村文子さんによる「カワイイ・ファッションショー」(21・22日)である。どの講演・イベントも大変な盛り上がりを見せた。

 

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 とある日の講演で、日本の「メイド喫茶」に行ったことがある人はいますか? との質問に、5、6人の方が手を挙げられたのは正直とてもびっくりした。もちろん本図書展で初めてこうした文化に触れる方もいらっしゃっただろうが、会場に来ていた方の中には日本のマンガやアニメにかなり詳しい方も相当数いたように思う。特に週刊少年ジャンプに連載されアニメ化・英文コミック化などもされている、ONE PIECEやNARUTO、 HUNTER×HUNTER、BLEACHなどは相当数の方がご存じであった(正直私より全然詳しい)。
 どの外国でも日本の伝統文化には当然興味を持たれているのであろうが、それ以上にアニメやマンガ、そしてファッションといったポップカルチャーに、日本人が意外と気づいていない極めて高い集客力があることをあらためて実感させられた。

 

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 「コスプレショー」、「カワイイ・ファッションショー」には、現地オーディションで選ばれたカタールの女性も参加した。私は会期前半で帰国したため、残念ながらカワイイ・ファッションショーは見ることができなかったが、コスプレショーは凄い人だかりで、一瞬秋葉原にいるかのような錯覚に襲われた…。上坂さんの声優トークイベントも、出演されているテレビアニメ『中二病でも恋がしたい!』を紹介しながら、トークをしていくという進行で、イベント終了後も一緒に写真をとってくれという方が続出であった。

 

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 しかし、特にショー関連では、日本ブースを切り盛りされていた大使館の安澤宗泰さんは大変であったと思う。蓋を開けてみれば、どのイベントもかなりの大盛況であったが、やはりイスラム教国であるから、外国人であっても露出の激しい服装は、女性、男性とも避けた方が無難であるとのことである。私が思っていたほどではなかったが、「アバヤ」と呼ばれる伝統的民族衣装で、目以外を黒い服で覆い、女性の身体のラインを隠している方も当然のことながら多数いらっしゃる。肌の露出に対して、年配の方や保守的な層の方から厳しい指摘を受けるのではないかと、コスチュームのスカートの長さなどにも、かなりの気を遣っていらっしゃった。

 

日本ブース(2)―国際交流基金・PACE共催の日本関連図書展示ブース

 さて、私が担当した国際交流基金・PACE共催ブースでは、日本関連図書を展示していた。小説から写真集、日本の紹介書籍、専門書、マンガ等々と展示書籍は多岐にわたるが、ほとんどは英文のものである。マンガは前述のイベントでも分かるように、中東でも大人気である。
 このブースでは書籍は展示するのみであるが、今回は紀伊國屋ドバイ支店がお隣に出展し、特にマンガを中心に品揃えが充実していたので、マンガを購入したいという方はお隣で販売してますよと、スムーズに案内できたのはとても有り難かった。
 やはり、他の出展ブースでは書籍が販売されているにもかかわらず、本ブースだけは展示のみですという形態は、ブックフェアではなかなか理解されにくいように思ったのが実感である。実際に、隣の紀伊國屋さんのブースで取り扱っていない書籍については、Only Displayと毎日何度も説明しなければならなかった。以前から指摘されていたところではあるが、来場者の方にとってみれば、販売も視野に入れた図書展という形態が望まれるかたちのように思う。

 ちなみに尋ねられることの多かった書籍は、マンガを除けば、武道の本、寿司の本、日本刀の本、日本の風景の本、ファッションの本、盆栽の本、漢字の本などである。主として伝統的な日本のイメージがあり、かつ美しい写真が掲載されている書籍に関して尋ねられることが多かった。日本で出版をしたい、また日本の本を出版したいといった類の相談、質問は全くなかったが、「日本で空手を習うと毎月いくら位かかるのか」とか、「君も持っていると思うが日本刀はいくらで買えるのか」(持ってません…)等、日本に関する普通の質問が多かった。やはり出版関係者よりも(もちろん会場内には出展している)、一般の方の来場が多いのではと思われた。

 当初はこうした展示書籍をメインにしながら、折り紙や書道で集客をと思っていたところ、折り紙や書道には、ひっきりなしに人がいらっしゃるほどの大人気である。大使館の方からも毎年この2つはとても人気があると伺った。

 

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 折り紙は、鶴や手裏剣等をいらっしゃった方と一緒に折ったりしていたが、どちらかというと、やはり大人よりも子供に人気があったように思う(特に手裏剣は子供に大人気で、一生作り方を忘れないほどに折った気がする。しかし、門司大使がもの凄く上手に伊勢エビを折って作っていらっしゃったのにはびっくり。すぐに来場者の方に請われてプレゼントとなった)。
 書道は、お名前の当て字を考え、漢字で書いて渡すというものだったが、これも予想を超えた大変な人気であった(半ば書道マシーンと化し、2時間ほど書き続けていた日もざらである…)。もちろん漢字がめずらしい、縦書きがめずらしいということもあるとは思われる。しかし、アラビア語は文字や文法はもちろん日本語とは異なる構造であるが、カリグラフィ(文字を美しく見せる書道のような手法)としても書かれるとのことであり、帰国後、大使館の安澤さんから、アラブ人は神聖な文字であるアラビア語を大切にします、日本語への敬意もその現れなのでしょう、というお話を聞いてとても納得した。

 

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日本ブース(3)―紀伊國屋ドバイ店からの書籍販売ブース
 
紀伊國屋さんのブースでは、上述してきたようにマンガの品揃えを大変に充実して販売していらっしゃった。カタールの税関を通すことにご苦労された商品もあったようであるが、フィギュアをはじめ、スタジオジブリのグッズなどマンガ・アニメを全面に押し出した構成となっていた。ドーハには紀伊國屋のような書店はなく、通常はドバイの紀伊國屋まで行かないと買えないとあって、こちらも連日凄い数の人が訪れていた。ドバイ支店の浦本さんが会期の最後まで在庫が足りるかどうか…と仰っていたが、ここもポップカルチャーというソフトパワーを素直に実感できるブースであった。ただ、2、3名のご来場者の方から、隣は子供向けの本が多いので、ここ(国際交流基金・PACEのブース)にあるような本も置いておいてくれたらなあ、というお話しも伺ったことは記しておきたい。

 

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さいごに

 来場者の方も多く、連日忙しい日々であったが、本図書展の日本ブースはまさに盛りだくさんの内容で、非常に充実した図書展であったと思う。
 今回、カタール日本大使館の門司健次郎大使、令夫人、新村出参事官、反町将之書記官、安澤宗泰さん、佐竹博子さん、マルワ・カラムさんをはじめ、大使館の皆様には大変にお世話になった。特に安澤さんには、この大きなイベントを細かくプロデュースされている中、現地でのすべての手配をしていただいた上、本レポートのお写真のいくつかまでも提供していただいた。会期中、2台のカメラを抱えながら朝から夜まで忙しく立ち回られていた姿が忘れない。本当に有り難うございました。
 紀伊國屋ドバイ支店の浦本杜若さんには、中東の出版関連のお話しだけでなく、様々な中東の情報や面白いお話しをたくさん聞かせていただいた。はさみやカッター、セロテープ等々、我々が困っているときにそっとお貸しいただいたこと、本当に感謝しています。
 また、私と一緒に国際交流基金・PACE共催の日本ブースを運営していただいたスタッフの皆様。受付等でのアテンドをはじめ、すっかり折り方を忘れていた鶴の折り方を教えていただいたり、書道に並ぶ人の整理をしていただいたり等、本当に何から何までお手数をお掛けしてしまい、感謝の念が絶えない。
 そして、スタッフでないにもかかわらず、毎日いらっしゃって助けてくれた日本語学校に通われているサード・アルクワリさん。受付、現地の方のご質問の対応に、毎日どれだけ多く助けられたことか分からない。マンガのお話しも楽しくさせていただいた。本当に有り難うございました。日本にいらっしゃるのが楽しみである。
 最後に、出版文化国際交流会(PACE)の横手多仁男専務理事をはじめ、色々ご心配をお掛けした新藤雅章事務局長、佐藤佳苗さん、そして国際交流基金、大学出版部協会の皆様に心よりの御礼を申し上げたい。

 

   
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