一般社団法人 出版文化国際交流会 Publishers' Association for Cultural Exchange (PACE), Japan 本文へジャンプ


第18回ソウル国際図書展

報告:佐藤 佳苗(出版文化国際交流会)



名  称
18th Seoul International Book Fair
会  期
2012年6月20日(水)〜24日(日) 5日間
入場時間
20日(水)      9:00〜18:00
21〜22日(木・金) 10:00〜18:00
23日(土)      9:00〜20:00
24日(日)      10:00〜17:00
会  場
COEX(韓国総合展示場)
展示面積
14,733m2
主  催
大韓出版文化協会
出 展 数
580社(昨年 572社)
参 加 国
20カ国(昨年 23カ国)
サウジアラビア、フランス、台湾、日本、中国、アメリカ、カナダ、
フィリピン、ベトナム、シンガポール、ドイツなど
入 場 者
126,799人(昨年 130,577人)
入 場 料
一般・大学生  3,000ウォン(210円)(1円≒0.07ウォン)
小・中・高生  1,000ウォン(70円)


全体像
 ソウル国際図書展は今年も例年同様、二つあるホールのうちの一つが児童書ブース専用となっていて、児童書に重きが置かれ、業界関係者間のビジネスというよりは、一般読者への図書の割引販売が中心のフェアだ。
 大勢の幼稚園児たちが先生に引率されてやってきて、あちこちでプレゼントをもらったり、かわいいと目を細められたりしている。児童書館では、絵本をはじめ教材類、グッズもたくさん並ぶ。自分たちでポップアップ本を作るコーナーもあり、小さな子どもたちが自由に楽しそうに絵を描いていた。

 

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 来場者全体としては、ベビーカーをひいたお母さんたちも目立つが、授業の一環としてグループでやって来る幼稚園児、そして多いのがやはり中学生、高校生だ。小さな頃から本に親しむ機会を提供し、本との関わりをつくらせるのが目的らしい。
 このソウル国際図書展の後すぐに東京国際ブックフェアが開催されるため、つい比較してしまうのだが、東京は逆に仕事関係で訪れるスーツ姿の男性が圧倒的に多く、児童や学生の姿はほとんど見られない。これはこれでそれぞれのブックフェアの性格だからよいのだが、読者を育てるという意味で、東京ブックフェアももう少し小中高生・大学生を取り込むようにしていってもよいのでは、そう思っていたら、来年の東京国際ブックフェアは一般来場者をターゲットにしていくとの情報が入ってきた。そうなったら東京の雰囲気もどのように変わっていくのか、楽しみだ。
 ソウルは一般読者の女性来場者が多く、男性は少なめだ。しかし毎回感じていた、女性が多いにもかかわらず50代以上の女性はなぜこんなにもいないのか、という疑問は、今回説明されて少し納得した。30年ほど前までは、女性は小・中学卒が一般的だったそうだ。となると、ブックフェアに自ら足を運ぶほどの本好きにはなかなかなりにくい状況だったと想像できる。韓国の現代史を振り返ると、文化開放がなされ、検閲もなくなり自由に様々なものに触れることができるようになったのもここ20年くらいとのこと。なんとなく日本と同じ感覚で考えてしまっていたけれど、事情は国によってそれぞれ異なることをあらためて思い知らされた。

 

会 場
 韓国の出版社ブースはどこも本の大幅値引きで来場者を引き付けている。あちこちでうちわやしおりなど、様々なおまけももらえる。びっくりしたのが、あるブースでは棒状のアイスクリームが配られ、大勢の来場者がそれを舐めながら会場内を歩いたり、本を手に取って読んだりしていることだ。溶け落ちて展示・販売されている本が汚れたらどうするのだろう、とつい気になってしまい、はらはらしながら見ていた。

 

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 外国ブースは自国の文化紹介が主で、写真が多用されたガイドブックなどが目につく。版権交渉を活発に行なっているのは、本会が取りまとめをさせていただいたトーハン、文藝春秋、ポプラの日本出展各社、主催者招待の学研、あとはフランスブースくらいのものだった。そもそも日本、フランス、今回ゲスト国のサウジアラビア、台湾、カナダ、アメリカ、ドイツ以外はほとんど本が展示されてもいなければ、ブースに人もいなくて、寂しい限りという印象。書店が入って本を販売しているのも日本とフランスのみ。

 

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 テーマ国のサウジアラビアは、入り口すぐの一等地に大きなブースを構え、カーペットを敷いて座ってくつろげるアラビア風の広い休憩所を設けたり、二階に上がって下の様子を見られるようにしたり、メッカの特大模型を用意したりなど、リッチな造りがまず目につく。置物やインテリアでアラビアらしさを演出している。アラビア書道や絵の実演タイムには大きなひとだかりができていた。そして来場者の名前をアラビア書道で書いてプレゼント、という日本も外国の図書展でよくやるイベントは、やはり大人気でいつも行列ができていた。しかし、肝心の図書が点数・冊数ともに少なく、ほとんど目立たない。それゆえ来場者も本にはあまり目を向けていない。その図書もコーラン関係が多かったようなので、やはり来場者にとっては遠く馴染みの薄い国であるし、図書の紹介を中心にするよりは、図書展という場を利用して、サウジアラビアという国を韓国の人にまずは知ってもらう、良い印象をもってもらうというのがねらいなのだろう。

 今年の特別展は、小説や初期の聖書、学校教科書に使われたハングルの文字を紹介した「失われたハングル書体」。ヘミングウェイ、サルトル、タゴールなど著名な作家10名の作品や原稿、写真や個人の持ち物などを展示した「ノーベル賞受賞作家」。「韓国の民話130点」、「ボローニャ国際図書展での韓国人受賞者作品」、「韓国出版協会が選んだ青少年向け推薦書」、「子供向けポップアップ本作りコーナー」だったが、今ひとつ新鮮味と集客力には欠けていた気もした。一方イラストレーターたちの作品が貼られている「イラストレーターの壁」はいつもながら大人気で、ゆっくり写真も撮れないほどの人だかりだ。

 

日本ブース
 独立行政法人国際交流基金のソウル日本文化センターと出版文化国際交流会が共催で設けた日本ブースは、今年も36m2の面積にところせましと並べた本で埋め尽くされた。日本からの486冊と、現地購入のハングル書90冊、計576冊。表紙を見せての展示が基本なので、棚だけでは足りず、毎度のことながら下に空き段ボールをずらりと並べてその上にも置く。それでもスペースが足りず、新書などは背表紙のみを見せてさらに段ボールの中にたくさん詰め込んだが、意外にもこれがまた本好きの人たちの好奇心をくすぐるのか、多くの人が段ボールの前に長時間しゃがみこんで、気に入りそうなものを物色していた。いつもながら、たくさんの人たちが詰めかけてブースはごったがえす。大変ありがたいことに、外国ブースの中では今年も圧倒的な人気ぶりで、日本書の需要は相変わらずの様子だ。

 

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 中でも内容に関する問い合わせが最も多いのは、子供の教育のためによいものを与えたいというお母さんたちから熱い視線を送られる児童書、そして一般来場者はもちろん、プロからも問い合わせの多い日本で人気の最新刊小説だ。例えば本屋大賞受賞作『舟を編む』をはじめとして、ノミネート作品をずらりと用意したが、ひとつひとつについてあら筋や感想、どれがお薦めかを聞かれて説明するなど、日本語をそのまま読める人が多く、日本の小説が大変人気のあるまさに韓国ならではのことと言えるだろう。ブースに並べる本は、自分もある程度内容をわかっていなければと常に思ってはいるが、ソウル向けは数も多いので全部読破はとても無理。でも小説だけはなるべく押さえておいて正解だ、読んでおいてよかった、と胸をなでおろした。今回1年分のJBN(国際交流基金発行の図書情報季刊誌、Japanese Book News)掲載候補図書もソウル用に用意され、それは日本の社会や歴史、科学などをテーマとしたノンフィクションが多くを占めていたのだが、そうした図書は男性、特に年配者に人気。写真集や雑誌、コミックは若者が友達同士で広げて楽しそうにコメントしあっている。料理や手芸などの実用書もよく売れていく。日韓関係書、韓国関連書はじっくり立ち読みをしている人が多い。英語のBooks on Japan写真集はここでも日本ブースの顔だ。ブース全面の文字があまり目立たず、どこのブースなのかがわかりづらいソウル図書展では、ここが日本のブースだということを一目見てわかるJapanやTokyoの文字入り写真集や寿司、日本庭園、京都などの写真集は、看板代わりにもなっている。そして意外にもこれらを手に取り購入を希望する人も多い。日本のありとあらゆるものがすでに紹介されていそうな韓国でも、このような「いかにも日本」もまた同時にある程度求められてもいるようだ。ハングル書で一番人気は『独学者用の日本語』、『(日本語へ)翻訳のための本』とのことだったので、次回はハングル書の日本語学習書コーナーを設けたいと思う。

 

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 今回も教保文庫が入ってブースで販売を実施した。ほぼ日本円の定価にあたる金額での販売で、20%引きとは言ってもウォンでは割安感はなさそうだが、それでも図書展効果のためか児童書や実用書はほとんどが売れていく。売れると次々に在庫を取り出してあらたに並べていくので、教保スペースは本が山積みのところを、来場者が物色しあって時にごちゃごちゃの様相を呈す。来場者からのアンケートでも、ブースが狭すぎる、展示の分類をもっと徹底して、とのご要望をいただくが、限られた狭いスペースにできるだけ詰め込み、多くの人が押しかける現状では、すぐに乱れて無理と言わざるをえない。それでもブーススタッフは、暇さえあればいつも本を整えに棚に向かっていた。一方では「もっとたくさんの様々な本を置いてほしい」という声も常にいただくので、結果、日本ブースの特徴は、「見栄えの良さより中身で勝負」。これ以上の面積拡大や、ブースのつくりそのものや備品に予算をかけられない中、できるだけ多種多様な日本の本、姿を紹介し、多くの来場者に日本の本を楽しんでもらう、日本のことを知ってもらう、そして気に入ったものがあれば購入してもらう、という目的は、かなり達成されていると自負してよいのではないか。

 

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 観光や留学関係のカタログをもっと用意したり、展示のコンセプトをおもいきって一新したり、より良いブースづくりを目指しての努力はしかし常に続けていかねばならないと思う。
 また現在は大いに興味をもってもらえている日本の本だが、今後どうなっていくのかはもちろんわからない。日本語ではなく中国語を習う人の割合も増えているというし、図書展当時はまだだったので影響がなかったが、その後発生した領土をめぐっての対日感情の悪化など、日本の図書に対する興味・需要にどれだけの影響があり得るのか、これから注目されるところだろう。知り合ったソウルの友人たちは、「政治と個人的興味はまったく別。おもしろいものはおもしろい、好きなものは好きなので、自分の中では今も何ら変わりない。」と皆言ってくれてはいるが・・・

 

すさまじい「競争社会」
 今までは聞くことのなかった「競争社会の厳しさ」についての話を、今回の滞在中にかなり耳にした。たまたまアテンダントのミンギュさんが、韓国社会についての話を連日たくさんしてくれたことも関係するが、長話をした来場者の人たちや知りあった業界の人たちからも嘆く声を多々聞いた。図書展と直接関係ない話題かもしれないが、強烈な印象だったので記しておく。
 もともと韓国の競争が熾烈だというのは有名だが、小さい頃から大学入学や就職するまでかとばかり思っていた。しかし、会社へ入ってからもごく一握りのポストを得た人以外はリストラを迫られ職を失うことが多く、40代半ばでもう退職が一般的。その後もなんとかして生活の糧を稼ぐ上で一生続く競争。もちろん世界中どこでも仕事上の競争はあるだろうが、幼いときから休む間もなくずっと続けてきているので、多くの人は本当に疲れ果ててげっそりしているように見受けられた。子どもを持つイコール破産、と言われるくらい子どもの教育にもお金がかかるそうだ。よって出生率は世界一低い。少ない子どもを有利な状況に育て上げるため、親は子どもの教育に以前よりさらに熱心になり・・という悪循環。
 男性、女性、年代にかかわらずだが、特に年配の男性がげっそりとして疲れきった表情でしみじみときつさを訴える姿は見ていて本当に痛ましいものがあった。話をした誰もが、「韓国は自殺率が世界一、それも小学生のまだ子どもまでが・・・」と嘆いている。日本の自殺も有名だが、子どもの場合は過酷な競争に疲れて、というよりは、いじめなどが原因の場合が多いのではないか。小さな子どもが競争のプレッシャーが原因で自ら命を絶つということに、言葉を失ってしまう。競争も、互いの切磋琢磨により全体のレベルが上がる、積極性や生き抜くしたたかさがつくなどプラス面も多いだろうし、そしてそれが国際競争力につながってビジネスでもうまくやっているようだが、競争はかならず敗者を生みだす。勝ち残れなかった人にとっては、生きづらい毎日が続く。これが一生続くなんて、きつい。サムスンなど世界で大成功を収めている韓国企業のことが日々話題となっているが、その背景には敗れた人たちが大勢いると思うと、聞くたびに複雑な気分になる。何にせよ、韓国の新たな一面を知ることができる、とてもいい機会となった。

 

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おわりに
 今回のアテンダントは、男性のキム・ミンギュさんと女性のキム・ミンジュさん。お名前がたまたま紛らわしいお二人だったが、名門大学に学び、外交官やジャーナリストを目指すそれこそ「競争に勝ち進んできた」学生さん達だ。来場者への対応から日々の細々とした作業まで、本当によくやっていただいた。個人的にもたくさんの話を聞かせてもらって、韓国がより身近に感じられるようになったのは、何よりもまずこのお二人のお蔭だ。そしてソウル日本文化センター所長本田さん、韓国ご担当をスタートされた情報交流部長の武田さん、情報交流部チーム長チョンさん、主任司書シンさん、日頃から韓国関連で何かとブレーンとして助けていただいている本会理事の舘野さん、PACEのOBで韓国通の落合さん、国際交流基金本部でご担当の皆様に今回もまたすっかりお世話になった。皆様のおかげで、今年も無事終了、大勢の方に喜んでいただけたこと、心よりお礼を申し上げたいと思う。

 

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