一般社団法人 出版文化国際交流会 Publishers' Association for Cultural Exchange (PACE), Japan 本文へジャンプ


第18回リマ国際ブックフェア

報告:佐藤 佳苗(出版文化国際交流会)



名  称
Feria internacional del libro de Lima
会  期
2013年7月19日(金)〜8月4日(日) 17日間
主 催 者
ペルー国書会議所
会  場
プロセレス公園特設会場(面積12,000u)
開場時間
11:00〜21:30
参 加 国
21カ国
(アルゼンチン、チリ、ブラジル、中国、キューバ、エクアドル、米国など)
テーマ国
コスタリカ
出展者数
170
入場者数
450,000人
入 場 料
4ソル(約140円)


はじめに
 今回リマで出張者に期待されていたのは、第一にまず今後のブースのつくり・レイアウトをどうするかについてと来場者対応についての助言で、そのため今回の出張は他社の方ではなくて私が行くことになった。もう3年にわたってこの点についての専門家派遣を要望されていていたのがこの度ようやく実現したことになる。
 さらには直前になって現地で講演もお願いしたいと言われ、急遽「日本における読書事情」という題で原稿と写真を用意することになったが、これはリマ以外の仕事が重なる最悪のタイミングだったこともあり、大変な作業となった。
 そしてせっかく私自らが現地へ行けるのだから、ブースでのあるいは会場での日本書販売、さらには普段から現地の書店で日本書を扱ってもらえるよう、絶対に取引先を探して見つけてきたいと思った(ちなみに中南米はスペインからの輸入図書が圧倒的で、版権取引きはまだまだこれからの様子)。
 この3点について、すべて無事に役目を果たし、成果を手に戻ってくることができたのも、現地の在ペルー日本国大使館で図書展ご担当の黒田なおみさんとローカルスタッフのキャンディ・スエヨシさんの様々なご配慮のおかげに他ならない。最初にまずお礼を申し上げておきたいと思う。

 

図書展全体
 公園の敷地に円形の巨大テントが張られて、会期中だけそこが突如図書展会場として出現する。話を聞いただけでは想像がつかなかったが、来て見てみるとあまりに大きくて、テントというかんじは一切しない。公園にもともとあるモニュメントや石の柱、ベンチや階段などがうまく利用されて、このためにわざわざデザインされて置かれたかのような内部空間となっている。公園に生えている木もそのまま活かしてあり、イベントスペースや展示スペースの床をくり抜いて建物内に木が生えているのが見ていて楽しい。

 

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第18回リマ国際ブックフェア開会式

 

 ブース借料に備品は含まれておらず、既成の棚の設定がない。どのブースも自前で展示棚を用意せねばならないので、普段自分の所で使用している棚などを持ち込んでいる出展者がほとんど。そのため壁に直接板を取り付ける他の図書展と異なり、色も形も様々な本棚が並び、全体としてとてもアットホームな雰囲気を醸し出している。
 この図書展は、大勢の人たちがお祭り気分で訪れ、気に入った本があれば購入する、一般来場者を対象とした「本の祭典」といった様子だ。書店も多数あるわけではなく、公共の図書館もないというペルーでは、図書展の17日間はごく一般の人が本に触れることのできる貴重な機会となっている。家族連れや友人同士で訪れ、会場をぶらついて、欲しい本を手に入れる。皆が楽しみながら本をめくっているのがとてもいい雰囲気で、見ていてこちらも幸せな気分になる。20〜70%引きという価格で割引販売されて、買う人がレジにずらりと並ぶ。

 

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会場内部

 

 業界人のビジネスが中心の、2週間前に開催された人けの少ない東京ブックフェアと比べると、こちらのほうが図書展(というか本の市場)本来の姿のような気がしてならない。対象・目的が異なるから比べること自体がおかしな話なのだろうが、きちんとオーガナイズされていない、手作り感あふれる図書展の姿に好印象を持った。
 しかし同時に、常設の建物ではないのでトイレも仮設のものしかなく、それも水が出ない等で使わないほうがよいと言われ、結局会場にいる間は長時間トイレに行けずの日々だった。またペルーは南半球なので7月は真冬、確かに日本の冬よりは暖かいが、それでも暖房もない戸外に張られたテントでは、特に夕方から夜はしんしんと冷え込む。ここまで寒いとは知らず、また日本出発の直前が連日37℃の猛暑だったこともあり、厚めの服は二つしか持参しなかったので、その二つを重ね着してしのいだ。毎日11時から21時30分という開場時間なのだが、夕方から遅い時間になればなるほど人出が増え、ここはラテンの国なのだな、と感じる。

 

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図書展会場

 

他の出展者
 中南米は、流通している図書のかなりの割合がスペインからの輸入図書だそうで、この図書展でも出版社よりは、輸入ディストリビューター/書店の大きなブースが目につく。出展している出版社も、多くはスペイン出版社のペルー支社とのこと。
 外国ブースでは、テーマ国のコスタリカをはじめとして近隣諸国のものが目立った。政府系機関が多く、自国の風景写真を背景に、本を配置というところが多い。ブラジルを除き、近隣諸国も皆同じスペイン語圏なので、言語の問題なく隣国諸国の本を読んで理解できるというのは我々からみると本当にうらやましい話だ。アメリカ大使館ブースは、紙の本が1冊もなく、ipadなど10台ほどの端末機器だけを置き、電子書籍のみを紹介していた。EUNICというEU内の10数か国の政府系文化機関が合同でひとつの小さなブースを借りていて、日替わりでひとつの国が自国の本を紹介するようにしていたのも、おもしろいシステムと思った。

 

日本ブース
 昨年まで15uだったが、今年から27uに面積を拡大した日本ブース。ペルー日系人協会(以下、APJ)もブース内にテーブルを出し、自ら発行した図書を販売する。ブースレンタルに備品がついていないため、過去2回ともブースの家具配置レイアウトにかなり試行錯誤を繰り返してきたとのこと。来場者が展示本を手に取ってじっくり楽しめるような、また我々スタッフにとっても使いやすい配置が一番なので、そのようなレイアウトを事前に提案しておいた。しかし行ってみると、伝えたようには現地のデザイナーさんが造っておらず、できる範囲であれこれ使い勝手が良くなるように変更して今回はよしとしたが、一番望ましいかたちを今回皆で協議し決めることができたので、来年以降はすっきりと使いやすいブースになるはずと思う。
 展示図書は英語、日本語、現地購入のスペイン語のもの。来場者の人気は、やはり英文写真集が圧倒的。文学やノンフィクションなど文字ものは、日本語、英語はもちろん、スペイン語のものでさえあまり手にとられてはいない様子だった。これはここに限らず、どこでも同様な図書展の宿命でもあるけれど。文字の本はある程度じっくり読まなければ、何が書いてあるのか中身がわからないため、図書展のように一度にたくさんの本を目にする状況だと、人はどうしても写真や絵など視覚に訴えるもののほうを手に取りがちになるからだ。

 

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日本ブース

 

 文字ものの中で、ペルーの日系人、日本からの移民について書かれたものはやはりよく手に取られていた。興味を持つ方が非常に多いようだ。
 京都国際マンガミュージアムから寄贈されたコミック900冊のうち、約半分が展示された。スペイン語のものは残念ながら少数で、他言語あるいは日本語のものがほとんどな上に中古なのだが、それでも買いたいと言ってくる来場者は後を絶たない。どこでもコミックはやはり大人気のようだ。
これら展示図書と寄贈コミックは、図書展終了後、APJの図書室へ寄贈され、利用者に活用してもらうことになっている。私がリマを去った後も図書展はまだ12日間続いたが、今回来場者からの要望やコメントを踏まえ、できることは改善をし、次回はさらに充実した内容にしていけたらと思う。

 

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日本ブース

 

 アテンダントはひろみちゃん、ゆみちゃん、ロドルフォ君の若い3人だ。ひろみちゃん、ゆみちゃんは日系人で学生さん、ロドルフォ君は大学を終えて、今後日本の大学で日本文学を学び研究者になりたいと現在準備をしている。3人とも大使館のキャンディさん指揮の下、とてもよくやってくれていた。キャンディさんは本好きで日本のことも日本文学に関しても非常によくご存じで、もしペルーに日本文学や地域専攻の大学があれば絶対に研究者や翻訳者になっていそうな人材。後述するが、日本専攻の大学がないというのは本当に残念なことと思う。

 

講 演
 私の講演は17日間ある期間中の第2日目に早速予定されていた。しかしその第2日目はまだもちろんのこと、結局開始5日後の夕方になるまで図書展のパンフレットやイベントプログラムが出来上がらず、何度聞いても「まだ印刷中、準備中」との返答。ブース地図も用意がなくて、どこに何のブースがあるのかさえわからない。例年はここまでひどくはなく、今年は事務局に何か事情があったのだろうと聞いたが、このラテンのおおらかさと不便さには本当に笑ってしまった。そんな中本番を迎え、コアな15名ほどにプラスして出入りする10名くらいの聴衆の方が来てくださった。プログラムが出来上がっていなくて情報がなかったはずなので、たまたま現場にあるモニターでタイトルを見た人や通りがかりの人がやって来たのだろう。
 「日本における読書事情」と題して、日本の本はどんな外見をしているのか(縦書きや帯など)、どこで本を手に入れているか、どんな場所で読んでいるか、今どのような本が読まれているか、村上春樹の新作が出たところだったので『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』の販売状況、読書推進活動について(朝読、POP、本屋大賞など)、大人にも大人気のコミックなどについて話をした。私が日本語で、続いて日系2世で日本語がとても堪能なキャンディさんがスペイン語で通訳してくれる。

 

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講 演

 

 質疑応答の設定がなかったので(ないとは知らず、何を質問されるかとドキドキしながら日本で準備をしていたのだが)、その場での聴衆の方の声は聞けなかったが、言葉がわからなくて煩わしいであろう日本語の部分でさえもとても熱心に、好奇心に満ちた好意的な表情で聞いていてくれたのがとてもうれしかった。話した内容で一番面白がられたのは、マンガ喫茶と通勤中の読書についてだった様子。終了後、話を聞いて本を見てみたくなったので来てみた、と言ってブースを訪れてくれる人達もいて、そこでもっと詳しく説明したりもした。来場者に情報が届かないという信じられない体制で少人数だったものの、来てくれた方は非常に熱心に聞いてくれ、ペルーとはだいぶ異なる日本の様子に興味津々だった。時期的にも準備は大変だったものの、自分にとって非常によい勉強になり、来場者の方にも多少なりとも喜んでもらえて、やってよかったと思う。

 

日本書販売
 予想どおり、ここでも日本ブースを訪れた来場者から、展示本を買いたいとひっきりなしに言われたが、今回のこの機会に日本書販売の取引先を見つけてきたいという件について、まずホテルから近いSUR書店へ行ってみた。普段から図書を購入する層が住むエリアの高級住宅街に位置し、前述のように、中南米はスペインからの輸入書がそもそもかなり多くを占めるが、ここは世界の芸術書や写真集、文芸書のスペイン語版をスペインから輸入して販売しているディストリビューター/書店。吟味して気に入った本のみを店に置く、落ち着いていて感じの良い店だ。小林一茶や筒井康隆の本を見かけたが、日本の作家ではやはり村上春樹がとにかく人気とのこと。大使館もこの書店から、スペイン語版の日本関係書を今回購入した。
 後日、社長のSansevieroさんと会場の日本ブースにて面会。普段からお店で日本の図書を輸入して販売してもらいたい旨お願いすると、日本との取り引きは初めてなので、ぜひにとのお返事。展示されている英文のBooks on Japan写真集やスペイン語で書かれた日本語教材に一番興味がある様子だ。日本の輸出業者さんを紹介し、帰ったら話をして直接コンタクトを取り始めてもらうようにした。うまく互いの条件に折り合いがつき、やがてリマでも普段からそれらの本が手に入るようになると本当にありがたい。その取り引きが始まれば、図書展ではSUR書店もブースを持って本を販売しているので、今後は図書展においても日本関係書をそこでも販売してもらえるとのこと。

 

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SUR書店

 

 もうひとつは、ペルー日系人協会、APJの日本ペルー文化会館だ。後述するが、日系人はもちろんのこと、一般の人にも開放して様々なサービスを提供している大規模な文化・福祉センターでもある。日本語クラスも設けられており、ペルーにおける日本語教育の中心的役割を果たしている。SUR書店に続き、ここでも日本語教材などを普段から販売してもらうことをお願いするため、会長の山城さん、実務トップの比嘉さんに面会。
 ここの日本語クラスがペルーにおける日本語教育の一番の中心となっているのに、教材も教師も十分足りていない状況とのことなので、スペイン語で書かれた日本語教材や辞書を、今後流通させることができればと思う。会館で販売することに関してはこちらも快諾いただいた。あとは日本の業者さんと条件がうまく合って話がスムーズに進むことを祈る。他にも日本の文学やコミック、手芸など実用書も置いて販売したいそうだが、やはりスペイン語でないと難しいとのことなので、それに関してはSUR書店よりスペインからの輸入書を入手して販売してもらえるようになったらすばらしい。
 また図書展の日本ブースでも、教材を販売してもらえたら大変ありがたいが、こちらについてもOKをもらえた。あとは日本の業者さんとの輸入条件しだいだ。
 協会はまた、日本の古典をスペイン語に翻訳してすでに数冊自分のところで出版もしていて、8月に源氏物語第一巻を出す予定とのこと。これをきっかけに、本格的に出版部を立ち上げたいとおっしゃっていた。今後日本関連書籍をどんどん出していっていただけるよう、期待したい。

 

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APJ山城さん、比嘉さん

 

日本ペルー文化会館を訪問
 日本ブースを共同運営するため、初日に日本ペルー文化会館に挨拶に伺った。図書展終了後に展示図書が寄贈される、会館図書室を拝見。図書室担当のパウラさんに案内してもらう。書架には年期の入った日本語の本も目立つ。駐在員が置いていったという日本の雑誌なども。また、昨年より京都国際マンガミュージアムから中古マンガを寄贈いただいているが、入り口からすぐの目立つところに配置されていた。利用者に人気のコーナーだそうで、帰国したらミュージアムのご担当渡邊さんに早速この様子を報告したいと思う。テーブルには静かに本を読む人たち、そして学生のグループ。日本では図書館は言うまでもなく学生にとって勉強場所のひとつとなっているが、ペルーでは公共の図書館がほとんどないため、落ち着いて勉強できる場所がなく、この図書館のような場所は大変貴重とのこと。ステレオを置いたリスニング用の小部屋や小さな子供が遊べるスペースもあり、いろいろ揃っている。図書室でボランティアをしている日系2世のソエダさんからは、波乱万丈の生涯のお話を聞くこともできた。

 

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APJ図書室

 

 事務局のハルミさん、ジョアンナさんに挨拶。実務トップの比嘉さんにも会見、互いに要望を伝え協力を誓いあう。日本語教室も覗く。しかし次に述べるが、ペルーにおける日本語教育には課題が山積みとのことだ。
 一方、日本文化の発信広報だけでなく、病院、老人ホーム、食堂、劇場、銀行などまでも経営して一般市民に開放している日系人組織のすごさには感激。それだけペルー社会に、人々の日常生活に深く根をおろしていることの証拠でもあり、とにかく脱帽だ。
 このAPJとは滞在中密接に関わることになり、短い滞在中に結局あと3回も訪れることとなった。その一つが3日目のAPJによる独立記念日お祝いのパーティーで、私も招待され会館内の大ホールを訪ねた。着席スタイルでペルーの料理や音楽、踊りを堪能させていただいたが、ペルーの日系人有力者たちが一同に会する盛大なものだった。毎回ここを訪れる度、建物内にある日系人移民資料館を見たいと思っていたが、いつも時間がなく見学できずのまま終わってしまった。ペルーの日系人社会を理解するのによい場所で、絶対見たかったのだが残念。

 

ペルーの日本語教育
 中南米では日本語・日本文学・日本研究の学部のある大学はほとんど無く、ペルーにも無い。そんな中、日本語クラスを設けてペルーにおける日本語教育の中心となっているのが上述の日本ペルー文化会館だ。しかし中級以上を教えられる先生がいない、教材も手に入りづらいなど課題が山積みだ。センターには他にも日本文化を伝える各種講座や催しがたくさん開催されているのに、スタッフで日本語がわかる人はほとんどいない。日系人も二世以降は大抵スペイン語しか話せず、コミックの影響でペルーでも一般的に日本ファンが増えていて、今後活動を強化していこうという時に、これではあまりにも心もとない。また図書の関連で考えても日本理解者、研究者、スペイン語への翻訳者が育たないというのは問題だ。
 このように大規模に活動を行っている日系人の組織があるのは中南米でリマだけとのことなので、日本側から見ても、これを利用しない手はない。まずは日本語教育の面で、教師育成などの支援ができないか、さらにはリマをサンパウロ、メキシコに続いて中南米第三の日本文化発信の拠点とすべく、このセンターと連携関係をつくっていけないか、国際交流基金に相談してみたいと思う。

 

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APJ

 

「日本の夕べ」
 4日目の夜にはAPJ主催・大使館後援の「日本の夕べ」が図書展特設会場で催され、沖縄の伝統芸能が披露された。すべて地元の日系人によるもので、年配者から小学生の子供たちまで出演していたが、普段から練習を積んでいて本当にレベルが高い。ペルーの日系人の7割はもともと沖縄出身とのことなので、「日本というとまず沖縄」なのも当然の感覚なのだろう。日本でも東京あたりではなかなか見られないものなので、リマに来て沖縄の音楽や踊りを堪能できるとは、ラッキーだ。聞くと、沖縄県が、沖縄県出身者を祖先に持つ世界中の日系人若者に奨学金を出し、数週間から数か月沖縄に招いて地元の歌や踊り、三線などを学ばせているという。そんなわけで彼らは国に戻ってからもきちんと練習を続け、先祖の故郷の伝統芸能が沖縄を遠く離れた地でもしっかりと受け継がれていく。沖縄は歌や踊りなどの芸能が非常に盛んと聞いているが、それが世界の日系人にまで浸透しているとは驚きだ。祖先が他県出身の人は日本の自治体からの援助は特に受けられないそうなので、沖縄出身者は大変恵まれている。しかしその沖縄の留学システムを支える予算の出どころを考えると、複雑な気分になるけれども……。

 

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「日本の夕べ」沖縄芸能

 

 あれこれ考えながら舞台を眺めていたが、踊りや演奏の合間に、まだ小さな女の子が懐かしのアニメ、キャンディーキャンディーの主題歌を歌ったり、若い男性が「これぞ日本」というかんじのしぶい演歌を熱唱したり、どちらもとても上手で感心すると同時に、若い世代が平均的な日本人以上に「古き良き日本」と関わっているのを目の当たりにして、感慨深い思いにとらわれた。また舞台芸術は本と違って、華やかですぐに人を引きつけられて本当にうらやましいと思う。本は基本的に読まなければ中身がわからないので、その場ですぐに理解してもらうのはなかなか難しい。

 

ペルーあれこれ
出版
 ペルーでは、これまでは本の発行というと政府機関や大学が研究成果を伝えるためにあるものという認識だったそうだ。そして一般の読み物は、スペインや近隣国からの輸入物が普通。確かに、会場の出展者を見ても大学や国の機関のほうが出版社よりよほど目につく。しかし約10年前と比べて、小出版社、若者のグループや、文化雑誌を発行するなど何か個性を打ち出したグループが出版を始めてきているそうで、小ブースながらそのような新興出版社も出展していた。学生や若者によく読まれているそうだ。18%だった本に対する消費税も、10年前に読書推進のため廃止されたという。出版という意識も、どんどん良くなっている国の経済状態とともに、まさにこれから、という雰囲気だった。

 

遺跡保護
 初日の開会式、出席した文化大臣が壇上で挨拶していると、デモ隊が突如プラカードを掲げて抗議を始め、排除されたが、その後は入口前でデモを続けていた。図書展は常設の建物ではなく、公園に巨大なテントを張って会場としているのだが、それが公園環境を損なうので問題だ、という観光保護を訴える人たちだったそうだ。またそれとは別に、文化省の遺跡保護優先政策に対して抗議の声を上げる人たちもいた。開発を優先して道路をつくろうとすると遺跡が破壊されてしまうという状況で、文化省は遺跡保護を優先させているが、遺跡よりも今の自分たちの生活がまず大事、と主張する住民たちもいて、遺跡保護か開発促進かという悩ましい問題が常にあるとのこと。マチュピチュなどペルーは国中に遺跡が多数あり、まだ地中にもたくさん眠っていると言われている。文化省は、国民に文化遺産の価値を理解してもらい、国民のアイデンティティ強化を図ろうと努める一方で、反対してナスカの地上絵を不法占拠している住民などもいるそうだが、何にしても、自分の意見を表明できる、図書展がそういう雰囲気のある場所だというのは健全でよいのではないか。

 

治安
 ブースでは共催相手のAPJがガードマンを雇っていた。ブース専用ガードマンというのははじめて聞いたが、APJは図書の販売をし、お金を扱うので、ペルーの感覚ではガードマンはいて当然、という様子だった。毎日終了時にAPJが売り上げの計算をし、最後金庫を持って事務所へ帰るまでの道中、ずっと警護する。それに加えてアテンダントも3名いるので、(少なくとも私のいた間は)展示図書の盗難がまったくなかった。他の図書展では必ず発生するので、この点ペルーは本当にすばらしい!もうひとつ感心したのが、夜間用のブース覆いだ。黒い大きなビニールシートを棒に貼りつけ、日中はくるくると巻いて端に立てかけて置き、終了後、シートを広げてブースの前面全体をきっちり覆うことができるようにしたものだ。最後は外側から鍵をかけ、頑丈なので中に誰も入れないようになっている。ペルーはもともと治安が悪い分、その面での対策が他国に比べてこのように非常に充実していて、結果として逆にすばらしい防衛力を発揮していた。

 

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夜間ブースの覆い

 

 一般的に言って、ペルーはかなり治安が悪い。単独で行動するな、夜はもちろん昼でもなるべく出歩くな。タクシーは運転手が強盗に変身するケースが多いから気をつけろ。乗車中、信号待ちの間にガラスを割られて荷物を盗まれるから気をつけろ、とどれもこれも、そうは言われても自分ではどうしようもないことばかり。ガイドブックにも、時計・携帯電話・デジカメを持つな、使うな、そういうものを見られるとサイフや命を狙われる。iPadなどもってのほか・・とあるが、できるのはこういうことくらいだった。常に安全に気をつけるのは外国では当然のことだが、その度合いをここでは常に最大にしていなければならないので、やはり疲れる。
 大使館やホテルがあるのは高級住宅地で、そこではある程度安心していられるとのことだが、それでもそれぞれの店や家の前にはガードマンがいて、通行人や中に入る人をチェックしている。一般家庭も、玄関の前に必ず高い鉄格子の門がまずあり、簡単には家の中に入れないようになっている。
 交通手段はタクシーしかないのだが、この毎日のタクシー乗車がもう本当にドキドキものだった。流しはもってのほか、普通にタクシーを頼んだのでも運転手が信頼できず危ないとのことなので、私の移動の際にはいつも大使館の人に、信頼できるタクシー会社を手配してもらった。それでも一人で真夜中に長距離移動する空港往復のタクシー車内は本当に緊張したし、怖かった。滞在中、開会時間が22時頃まで、その後後片付けなどで、結局夕飯を食べるのはいつも23〜24時ごろ、その後ホテルに戻るが、毎日ホテルまでキャンディさんにいっしょに来てもらったし、黒田さんにもマイカーで何度か送っていただいた。
 流しのタクシーに乗る時がまたおもしろいので書く。まずは運転手が安全そうな人かどうかを見極め、さらにメーター制ではないのでその都度料金を交渉、折り合いがつかなければ何台も見送って、きちんとした人を探す。在住者なら、運転手の顔を見ただけでなんとなくわかるようになるそうだ。不安そうな運転手なら、念のため車体の番号をメモする。もちろん英語はまったく通じず、スペイン語のみ。ぽっと行った旅行者にはとても無理な芸当だ。びっくりしたのが、後部座席に4人で乗ったこと。ぎゅうぎゅうに詰め合ってピクニックみたいで楽しかった!しかしさらに膝の上にもうひとりずつ、前座席もあわせて9人での乗車もあるというから笑ってしまう、一度体験するのもおもしろそうだ。
 そしてペルーの運転文化がまたおもしろい。皆が1秒を争うかのように、前へ、先へと車線を変更し突っ込みあうので、隣の車との距離がもう2cmしかない、ぶつかるー!という状況など本当にしょっちゅうで、乗っていてハラハラしどおしだ。交通量の多い交差点でも信号がないところもあり、左右から飛び込んでくる車を阿吽の呼吸でかわしつつ通る。「信号があっても守らない人が多いが、これなら誰もが止まるから」とあちこちに置かれている大きな敷石。乗車中に乗り上げてがくんがくんと大きく揺られることはしょっちゅう。すごくワイルドな運転を誰もがするので、運転技術は皆非常に高い。日本でしている感覚で運転したら、ここではすぐに事故となってしまうだろう。
 そんなわけで、ペルーでは運転手が信頼できる人かどうか不安な上に、ワイルドな運転で事故に巻き込まれないかハラハラ、ただの移動にものすごく神経を使うので本当に疲れた。
 ひとつ言えるのは、もし他社から誰か出張に来させていたら心配でしょうがなかっただろうが、自分が来たから、まあここまで来たらなるようにしかならない、人の心配をするよりは、怖いけど自分が来てしまったほうがよほど気は楽だ。まさにPACEの仕事は命がけだ。

 

おわりに
 成田空港に着き車で帰宅する道中、穏やかすぎる日本の運転風景にすっかり気が抜けてしまった。無事帰国しホッとすると同時に、1週間とても密度の濃い滞在で、すばらしい出会いや驚き、発見の連続だったので、もう少し長くいてもっといろいろな事を見聞きしたかったとも思う。私は海外各地の図書展を担当しているが、中南米は初めてで、行ってみたらこの地域独特のことが山ほどあり、こういうことや感覚も知らずに今までこの地域に図書を送っていたのか、と思うと愕然とした。まさに百聞は一見にしかずで、過去の報告書から得ていた情報はあまりに少なく、自分が実際に行って様々に見聞をしたのとでは大きな違いがあった。この仕事に携わる者として、やはりまずは現場を知らなくては始まらない、という思いを強く感じた。
 滞在中何から何までお世話になった前述の黒田さん、キャンディさんには、現地事情をたくさん聞かせていただき、非常に勉強になった。黒田さんは本当に中南米とその人々を愛し、この地で何とか日本の文化を紹介しファンを増やすべく、日々ご尽力されていて、志を同じくする者としてとてもよい刺激をいただいた。このお二人、さらに現地でお世話になったアテンダントや大使館の方々、そして何より今回このように実り多く貴重な経験をさせてくださった国際交流基金の皆様方、特にリマご担当で最初から今に至るまでずっときめ細かくサポートくださっている川戸しのぶさんには、心よりお礼を申し上げたい。本当にすばらしい機会をどうもありがとうございました。

 

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日本ブースでのAPJ図書販売コーナー

 

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キャンディさん、アテンダントの皆さん

 
   
©PACE