一般社団法人 出版文化国際交流会 Publishers' Association for Cultural Exchange (PACE), Japan 本文へジャンプ


第26回アブダビ国際図書展 / 第29回テヘラン国際図書展


報告:佐藤 佳苗(出版文化国際交流会)



名  称
第26回アブダビ国際図書展
会  期
2016年4月27日〜5月3日
会  場
アブダビ国際展示場
主  催
アブダビ観光文化庁
出展社数
1,260社
参 加 国
63カ国 エジプト、シリア、レバノン、イタリア等
入 場 者
約27万人


図書展会場
 独立行政法人国際交流基金と出版文化国際交流会との共催による国際図書展参加プロジェクトでは近年、中東湾岸協力会議(GCC)諸国への出展に力が入れられている。アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビもその一つで、今回が5回目の日本ブース出展だった。
 世界最大のビジネス・ブックフェアであるフランクフルト・ブックフェア主催者が共同出資しノウハウを伝え、このアブダビ国際図書展を中東・北アフリカ諸国における出版ビジネスや読書推進の中心とすべく力を入れている図書展でもある。
 非常に裕福な国であることを反映して、図書展会場でも国内政府機関ブースの多さと、それぞれの大きさ・豪華さにまず目を奪われる。図書展事務局配布パンフレット類もすべて書籍の装丁でフルカラーと立派だし、購入した図書を持ち運べるキャスター付きのケースも無料で配布されるなど、ふんだんにお金がかけられている。民間エリアでは地元UAEと並んでエジプト、シリア、レバノン等地中海沿岸中東諸国の出版社・書店ブースの多さが目についたが、中東ではそれら地中海沿岸諸国が古くからの文化大国・出版大国で、一方アラビア半島のGCC諸国は石油発掘後裕福にはなったものの、つい30、40年ほど前までは砂漠での遊牧生活しかなかった地域のため、文化や教育についてはまだまだこれからということだ。図書展でも様々な読書啓蒙イベントが行われ、政府も生徒・学生を対象に1.5億円分の図書クーポンを配布したという。

 


政府系ブース


無料で配布される便利なカート

 

版権取引き等
 UAEのある出版社社長から、とある日本の児童書を見て内容が大変気に入ったのでぜひアラビア語で出したいのだが、事情があり日本の著者が翻訳出版を許可してくれない、何とか助けてほしいと言われ、現地で会って詳細を聞いた。「良質な児童書が圧倒的に少ない当地では、外国からよいものを積極的に取り入れて、UAEはもちろん、広くアラビア語圏の子供たちに紹介していきたい。UAEやGCC諸国はここ数十年で一気に富裕国となったが、文化や教育の充実はまだこれからという状況で、子供の人間形成、道徳、読書推進活動などに現在国を挙げて取り組んでいる最中なので、ぜひ日本にも力を貸してもらいたい」とのことだった。帰国後、日本側出版社に掛け合って著者の許可は無事得られ、現在翻訳出版の話が進められている。

 


読書推進イベントをしていたザイード大学の学生さんたち

 

 アラビア語は世界で3番目に多くの国・地域で使用されている言語だが、日本からは地理的・文化的に遠く、なじみのないイスラム圏ということもあって日本の本の権利はこの地域にはまだほとんど販売されていない。国が充実した支援を提供しているところもあることだし、今後有望な地域であるのは間違いないので、引き続き情報収集に努め日本の図書普及を目指していきたい。
 図書展ではシリアの出版社ブースもたくさん出展していたので、「お国が大変な状況だという報道を連日耳にしているが」と声をかけると、「確かに大変な地域もあるが、そこ以外では普通の暮らしをしているよ。出版社も書店も普通に店を開いて仕事をしている。」と言われ驚いた。さらに驚いたのは、日本から来たというと「日本の本もあるよ」といくつかシリアブースに連れて行かれ、古事記から大岡昇平まで様々な日本の作品のアラビア語版を見せられたことだ。そういえば私がたまたま話しかけたレバノン出身で現在はアブダビで働いているという来場者も、日本の古典作品をよく知っていてびっくりした。シリアとレバノンが出版大国というのも思わずそれだけでも納得してしまいそうになり、どんな国なのか興味が膨らむ。

 


アラビア語版日本文学

 

 ドバイにある紀伊國屋書店ドバイ店ではマネージャーの浦本杜若さんをお訪ねし、日本が参加する中東諸国でのブックフェアすべてに出展し日本ブースの展示本も販売いただけるよう、あらためてお願い申し上げた。その他イスラム圏での展示や販売に際して、イスラム教に反することになるため注意しなければならない点が実際どの程度までは許容されているのかについてなど(女性のイラストや写真、豚肉、アルコール、他宗教、恋愛もの等)、様々にご教示いただき大変有意義な面会となった。

 

所感
 UAEはアラブ圏ということで、行く前はアラビア語ばかりだと覚悟していたがとんでもなく、ここは英語圏かというほど街中でも仕事でも英語が普通に使用されていた。表記もすべて英語併記。UAE国籍者は人口の1割に過ぎず9割が外国人、そのうち4割がインドとパキスタンから来ているためだそうだ。彼ら外国人労働者も含めて、所得税等の税金が存在しないという誠にうらやましい国でもある(消費税は2018年から導入予定とのこと)。UAE国籍者ならばさらに、教育・医療・老後もすべて無料で何の心配もいらないだけでなく、結婚したら国が新居をプレゼントしてくれるそうで、こんな国も世界にはあるのかとため息が出てしまう。

 

 

 

名  称
第29回テヘラン国際図書展
会  期
2016年5月4日〜14日
会  場
シャフレ・アーフターブ
主  催
Iran Cultural Fairs Institut
出展社数
国内 2,400社 国外 3,600社
参 加 国
21カ国 ロシア、中国、インド、トルコ、シリア、イタリア等
入 場 者
約510万人


図書展会場
 イランへは長年にわたって出展しているが、今年はこれまで街の中心にあった会場が郊外へと移転され、アクセスの悪さから来場者減が当初懸念された。しかし会場への地下鉄もバスも超満員、市内とを結ぶ道路ではマイカーの「図書展渋滞」も発生し、相変わらずの人気ぶりだった。公式入場者数が500万人とあまりに多すぎるのでこれまでその数字を疑っていたが、行ってみて納得した。年齢や職業などに関係なく皆が春のピクニック感覚で出かける、国を挙げての一大イベントらしいのだ。宗教的、政治的に様々な制約がある中、図書展はおおっぴらに楽しめる数少ないイベントという背景がある。

 


図書展会場でもピクニック

 

版権取引き
 イランも昔からの文化大国らしく、国民的詩人たちの作品を皆がそらんじていたり、テヘランには神保町のような本屋街もあったりして詩や本に親しむことが浸透している。ただ日本をはじめ外国にとって問題なのは、イランに作品を売ろうと思っても、国として著作権保護条約に加盟しておらず著作権が守られない可能性があるということだ。WTOへ加盟しても同様の扱いとなるが、どちらもイランは現在加盟準備中で、実現にはまだ年月がかかる見込みとのこと。しかし出版社の中には世界基準のやり方をしているところももちろんあり、そういう社はすでに日本をはじめ外国との版権取引きもしているという。今回の出張でもイラン政府や出版界の人にまずは基本となる法整備をと要請してまわり、その後もし続けている。
 後日談だが、法の整備には時間がかかる見込みとのことで、まずはすぐにできることから始めようと、きちんと権利処理をする出版社を選んで日本の主に文学作品をペルシャ語で翻訳出版するというプロジェクトを在東京イラン大使館文化センターから提案され、まずは20点ほどを目安に現在進めている最中である。

 


 

日本ブース
 アブダビ、テヘラン共に日本ブースは様々な分野の図書を展示し、多くの来場者が楽しんでくれていた。アブダビでは日本ブースの裏側に紀伊國屋書店ドバイ店がブース出展し、人気商品を取り揃えいつもにぎわっていた。イスラム圏ではあるが、世界的に人気の日本のコミックやイラスト集なども普通に大量に販売されていたのは意外だった。特に若い世代が熱狂的に群がっているのも世界共通である。イランでは古代ペルシアを想定したという講談社のコミック『アルスラーン戦記』が大変な人気だそうで、何人もからペルシャ語版を読みたいと切望された。出版社様には今後ご検討いただければ幸いである。経済制裁の影響で送金システムに問題があって実現していなかったテヘラン日本ブースでの図書販売も、在東京イラン大使館がイラン政府として全面的なバックアップを申し出てくださり、現在調整中だが、ぜひ実現させたいと思う。

 


テヘランでの日本ブース


アブダビでの紀伊國屋書店ブース

 

 テヘランでのブースアテンダントは全員テヘラン大学日本語専攻修士課程の優秀な学生さんたちで日本語も大変堪能。そのうちの一人、ザハラさんはまずは日本で博士課程を修了し、将来は大学教授を目指したいと語ってくれた。彼らのような人たちが今後、日本の図書をペルシャ語で翻訳出版する際、質のよい翻訳を担ってくれる人材となるに違いない。

 


アテンダントのザハラさん

 

所感
 ビザ取得に始まり、事前にネット上であるいは外国からホテル予約ができない、現地でもクレジットカードが一切使用できない、yahoo、google、facebook、Line等のネット閲覧が不可でメールができない、数字がイラン独特のもので読めない等、訪れる際のイラン特有の事情には本当に不便を感じた。また同じイスラム圏でもUAEは外国人ならば普通の服装で構わないしスカーフも不要なのだが、イランは外国人でも女性は身体のラインを隠すコートとスカーフの着用が義務づけられる点が、何よりも煩わしかった。暑い時、体調がよくない時は特に。

 


イランの手芸・服飾書

 

 イランへ行くなんて危ない、テロに巻き込まれたら、誘拐されたらどうする、ツアーではなく個人で、ましてや女性の一人出張なんてとんでもない、と言われつつ出発したが、そういう意味で危ないということはまったくなく、逆に人々が本当に人懐こく、おせっかいとも言えるほど親切で非常によい印象を持った。よそ者として道を歩いていると大勢の人から次々声をかけられて煩わしくもあるが、時には彼らと長々と話し込んだり、道端でピクニックしている家族からいっしょに座ってお茶を飲んでいきなさいと誘われたり、旅行するにはまだ不便な国だが、人がとても魅力的だ。
 上記のシリアやレバノン同様、イランも危ない、怖いという悪いイメージばかりが現在広まっているが、私が話をした人たちは皆気さくで親切だったし、やはりメディアによる情報を鵜呑みにせず、機会があれば実際に人々と会って話をしてみる、それが無理ならばなるべく相手の事をいろいろと知ろうとする姿勢が互いに必要なのかもしれない。
 UAEでもイランでも、今後日本の本を現物も権利としても広めていく手がかりを大いに得られ、非常に有意義な滞在となった。在UAE日本大使館の鈴木さん、在イラン日本大使館の若林公使、高橋さん、大曲さんには様々な現地事情をご教示いただいた。ブースアテンダントの皆さん、大勢の現地出版社・政府関係の方々、大川さんはじめ国際交流基金の皆様にも心より感謝申し上げたい。

 
   
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