一般社団法人 出版文化国際交流会 Publishers' Association for Cultural Exchange (PACE), Japan 本文へジャンプ


第22回ソウル国際図書展報告


報告:佐藤 佳苗(出版文化国際交流会)



名  称
Seoul International Book Fair
会  期
2016年6月15日(水)〜19日(日)
会  場
COEX(韓国総合展示場) Hall A
主  催
大韓出版文化協会
出展社数
国内 224社(昨年 197社、一昨年 231社)
海外 131社(昨年 106社、一昨年138社)
参 加 国
20カ国(昨年 15カ国、一昨年 22カ国)
フランス、イタリア、中国、台湾、トルコ、ドイツ、アメリカ等
入 場 者
103,214人(昨年 101,354人、一昨年 130,957人)
カルチャーフォーカス国
フランス
スポットライト国
イタリア


図書展会場
 昨年はSARSのため会期が例外的に10月へとずれたが、今年はまたいつもの6月、会場も以前と同じ広いホールへ戻っての開催。しかし国内出展者数は昨年よりは持ち直したものの一昨年には及ばず、総入場者数も昨年よりは増加したが一昨年より2.8万人弱も少ないままという結果だった。今回どうなるかと注目していた販売割引は図書展においても結局また適用外とはされず、国内書は定価販売のまま。国内出版社も来場者も、以前ほど出展や会場に足を運ぶことのメリットを感じられなくなっているのだろう。講演会・イベント用スペースが明らかに増やされ、広さの戻った会場を埋めていた。海外からの出展者数は一見持ち直したように見えるが、実際には主催者から無料招待され出展参加したという社も20社ほどあり、奥の通路は版権売買ミーティングをするエージェントや出版社の最小ブースがずらりと並んだ。平日の3日間はここだけ見たらソウルはB to B図書展かと間違うほど商談が活発に行われていたことが今年の特徴だが、図書の販売割引ができなくなったことで一般来場者向けだけではなくB to Bにも力を入れ始めたらしく、図書展の方向性や果たすべき役割をまさに模索している最中と言える年だった。隣接会場では今回初めてデジタルブックフェア(来場者約2万人)も同時開催され、図書展と自由に行き来できるようになっていた。今後どのような図書展にしていくのか、試行錯誤が続いていく様子だ。

 


今回の図書展テーマのひとつ、「訓民正音」


ずらりと並ぶ商談ブース

 

 昨年テーマ国だったイタリアが中途半端にしか出展できなかったためか、今年「スポットライト国」としてまた取り上げられ、そして「スポットライト国」があるためかテーマ国の設定は今回なく、「カルチャーフォーカス国」としてフランスが選ばれていた。ともに作家の講演や専門セミナーなどが行われた。
 しかし土・日に関しては来場者数も昨年より大幅増で、一昨年並みまでしっかり回復した。国内書の販売割引がなくても、本が好きで見て回るのを楽しみにしている層はやはり必ずいる。また法の適用外となる輸入英語図書などは50%、70%等大幅割引され大勢の人が買い求めていた。広報大使の詩人シン・ダルザ氏の朗読や対談、ブッカー国際賞を受賞した韓国の作家ハン・ガン氏の作品『菜食主義者』が特に注目されていた。
 日本からはポプラ社、トーハン(その中にあさ出版、NHK出版も)が独自ブースを設け活発に商談をし、朝日新聞出版、岩崎書店、ダイヤモンド社が主催者招待で小ブース出展をした。韓国に対しての日本の版権輸出は好調なため、主催者がこの図書展を商談の場としていく方向で動いているのであれば、1m幅ブースからあるので日本の関係者もぜひ出展し韓国でのビジネスに挑戦していただきたいと思う。フィクションに加え、実用書、自己啓発・学習、健康等のジャンルの需要が多いとのことだ。
 
日本ブース
 独立行政法人国際交流基金と出版文化国際交流会の共催で設けた日本ブースは今年も様々な本を展示し、土・日には大勢の来場者が詰めかけた。現地書店の教保文庫による日本の図書販売(20%引き)は11,612,060ウォンで昨年並みの売り上げ。書店の手続きの問題で今回は在庫を揃えられなかった本が多数あったようなので、次回は改善を求めたい。
 今回通路に面した目立つ場所に布絵本や飛び出すしかけ絵本などを置いたところ、小さな子供や中高生たちはもちろんのこと、大人も手に取って長時間楽しんでいたし、「リラックマ」や「ぐでたま」といったキャラクターの本も相変わらずの大人気で、遠くから見つけて「きゃあ、リラックマー!」と叫びながら駆け寄ってくる人たちがたくさんいた。
 小説類では「心が楽しい気分になる本を買いたいのだが」「日本語教師をしている友人への誕生日プレゼントを探している」「日本語を習っているのだが読むのに適当な本はどれか」「日本で一番人気の本は」「韓国でも絶対売れると思われる本は」等、一般・業界の方を問わずお薦めを聞かれることが多く、あらすじなどをひとつひとつ詳しく説明することもよくあり、いつものことながら展示する本を事前にしっかり読んでおいてよかったと胸をなでおろした。毎回必死に読んでいるが、それでもソウル向けは展示図書も多数のためとてもすべてを読むことはできないのだけれど。このように来場者が日本語の文字だけの分厚い小説やノンフィクションを、中身を吟味した上で次々購入していってくださることには本当に感激する。他国の図書展ではそこまで日本語ができる人は少なく、展示図書も英語版や写真・イラストが多用されたものを求められることがほとんどなので、韓国は本当に例外中の例外だ。日本語がわかる人が多く、またそのレベルが非常に高い。

 


にぎわう日本ブース


にぎわう日本ブース

 

 さらに日本語能力だけでなく、日本の図書に対する関心も高い。韓国「本と社会研究所」代表のペク・ウォングン氏によると、2015年に発行された翻訳書新刊のうち日本の図書の割合は42%、国内書を入れた新刊総発行点数の9%にもなるという。新刊書の10冊のうち約1冊が日本の図書というのはものすごいことではないだろうか。韓国最大手書店、教保文庫2015年の総合売上1位、それも51週連続第1位という新記録を打ち立てたのは『嫌われる勇気』韓国語版で、2016年5月に発行された続編『幸せになる勇気』韓国語版も6月に訪れた当時どの書店でも週間ベストセラー入りし山積みにされていた。日本ブースの販売でも益田ミリ氏の作品が何点も目についたが、その大人気ぶりは日本国内以上だ。東野圭吾氏、村上春樹氏などの日本の人気作家作品も相変わらずベストセラー常連。またコミックや文学には遠く及ばないが、理系と社会科学ジャンルも2015年だけでもそれぞれ250点以上が韓国語で翻訳出版されているという。

 


韓国語版「嫌われる勇気」シリーズ


日本の人気小説・コミックを多数扱うSomy Media社

 

所感
 普段ニュースを見ていると、韓国と日本の二国関係はますますこじれ、一般の人の韓国に対するイメージも悪化する一方の様子だが、マスコミで報道されているような点だけを見て韓国や韓国の人を判断せず、例えば上記のような面もあるのだということを声を大にして申し上げたいと思う。
 今回のアテンダントは、ハム・スンヘさんとチョ・ジウォンさん。二人とも留学や仕事で日本生活を経験していて、日本語も完璧で様々にサポートしてもらった。彼らからは、ほんの一握りの人しかまともな生活ができる職に就けない社会の歪み、その僅かな枠をめぐっての幼少からの熾烈な競争、そもそも生まれた時からずっと埋めることのできない格差、就職後も変わらぬ生存競争等、韓国の大変な状況をこれでもかというほど聞かされた。その後起こった朴大統領に対しての一連の出来事も、人々、特に若い世代の不満や不公平感、絶望感がこれ以上ないほど高まっているという背景、何十年も積み重ねてきた社会の歪みがついに爆発した結果と言えるのではないか。次回の図書展の頃にはどのようになっているのか、韓国も、日韓両国関係も。
 有意義なお話をたくさん聞かせていただき、ブース運営でもすっかりお世話になった国際交流基金ソウル日本文化センター山崎所長、勝田さん、チョンさん、シンさん、本会ブレーンの舘野さん、落合さん、アテンダントのハムさん、チョさん、国際交流基金本部の湯橋さんはじめ皆様に今回も心よりお礼を申し上げたい。

 

 
   
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