一般社団法人 出版文化国際交流会 Publishers' Association for Cultural Exchange (PACE), Japan 本文へジャンプ


第23回ソウル国際図書展


報告:佐藤 佳苗(出版文化国際交流会)



名  称
Seoul International Book Fair
会  期
2017 年 6 月 14 日(水)〜 18 日(日)
会  場
COEX(韓国総合展示場) Hall A
主  催
大韓出版文化協会
参 加 国
17ヵ国(昨年 20ヵ国)
トルコ、カナダ、台湾、フランス、イタリア、イギリス、アメリカ等
出展社数
国内 276社(昨年 224社)
海外 80社(昨年 131社)
入場者数
202,297人(昨年 103,214人)
テーマ国
トルコ  スポットライト国:カナダ

※ ( )内は2016年実績

 

全  体
 今年のソウル国際図書展の特徴は何と言っても、来場者数が昨年の約2倍に増えたことだろう。初日水曜日の午前中は、例年だとまだ人の入りは少なく閑散としているのだが、今年は開場と同時に奥に位置している日本ブースにも人がたくさん詰めかけ、早々に従来との違いに気づかされた。午後も、そして翌日木曜も同様。一体何が起こったのか事務局に問い合わせてみると、今年は主催者である大韓出版文化協会の会長が交代し、従来のやり方を変えた新しい試みが功を奏しているのではないかとのこと。具体的には、ここ数年イベントスペースを増やし講演等を多数催していたが、今回はそれを大幅に減らし、替わりに特色のある独立系書店や出版社を60社ほど招待し無料でブース出展させて、従来から出展している大手出版社ブースとは異なる雰囲気を演出。2014年の法改正前までの割引販売中心から、試行錯誤の2回を経て、今回は一般読者に書店や出版社とのコンタクトを増やして本にもっと親しんでもらおう、自ら好みの本を選び出すプロセスを楽しんでもらおうというコンセプトのもと、来場者の反響・読書推進という意味で今回は結果的に大成功へとつなげられたようだ。

 

今年の目玉
 その今年の目玉が、20社ほどの独立系書店が集まるThe Era of Bookstoresエリア。出展者ごとの壁や仕切りを設けず背の低い台のみを使ってオープンスペースになっていたため、出展者ごとの個性を目立たせる造りにはなっていなかったが、おそらく来場者に一度に様々な本を見てもらう空間を目指したのだろう。ソウルだけでなく韓国中から呼ばれて来たそうだ。韓国では今、街に独立系書店が次々とオープンしているという。法改正で図書が定価制となり書店間の大幅値引き競争がなくなったことにより、それなら自分でも書店を開業できるのではないかと考える人が増えているのだろう。その背景には、若者の大変な就職難や、就職後リストラされた人がカフェなどを始めるケースが多く独立開業の意識が高いという韓国独特の事情もあるという。



The Era of Bookstoresエリア


 もう一つが個性ある小規模出版社40社ほどが出展したDiscovery of Booksエリア。釜山からやってきて地元の美しい風景写真で飾り付けをしていたSanzini社、人気歌手の人物写真が目を引き、人気俳優を起用した韓国語学習教材等を各国語で出しているMaribooks、小学校の教科書に載っていて誰もが知る青少年作品を扱い、若い来場者たちから絶え間なく話しかけられていたBarambooksなど、どこも7タイトルのみと展示のタイトル数は少ないが、それぞれの一押し品をうまくアピールし来場者が見入っていた。
 ともに、「どこで買っても本の価格が同じなら、自分の好みに合う雰囲気の書店で、好みの作品を見つけたい」というニーズが出てきた読者に対して、「そのように自分の好きな本を見つける楽しみを味わってもらうこと」「この機会に出版社や書店をもっと身近に感じてもらう試み」が今年の主眼とのことだ。
来場者参加型の演出も多数用意し、図書を見るだけではない工夫をしたのも活気ある場づくりへ貢献していた。
  • 小説やエッセイの一節が書かれた紙がボタンを押すと機械から出てくる仕組みで、何が出てくるかお楽しみという「メッセージのおみくじ」。書かれているのはメッセージ性のある内容とは限らなかったようだが、そのおみくじを求めていつも長蛇の列ができていた。



    「メッセージのおみくじ」コーナーに並ぶ人々


  • 自分の興味を持っていることや現在抱えている問題などを事前の申し込み時に伝えておくと、その人にぴったりと思われる本を作家や評論家が探し出して会期中にその人に直接会って話をしながら薦めてくれる「本のソムリエ」。占い師のところを訪ねたかのように、個別のテントの中にテーブルや椅子がセットされプライバシーに配慮した、ひっそりとした空間が作り出されていた。



    「本のソムリエ」コーナーは個別のテントで相談できる


  • 従来はオリジナルを多数並べて展示していたイラストレーターの原画を、電子化しディスプレイで紹介、ヘッドフォンで心地よい音楽を聴きながらその人の作品を何点も楽しめるしくみ。紙の本になったものも同時に手に取って見ることができる。
  • 来場者が自分の好きな詩を手書きし、貼り付けて皆に見てもらうコーナー。谷川俊太郎の『生きる』もハングルで書かれ貼られていた。



    手描きの詩



 各ブースでも、感想メッセージを書いて貼り付け装飾の一部にする、50円相当のガチャガチャを引いて出たタイトルの本がプレゼントされる、電話をかけると不思議な画像を見せてくれる等、不可解なものも含め来場者自らが関われるよう何かちょっとした事をすることを促すものが目についた。

 

背  景



会場正面


 設定された今年のキーワードがまさに「変身— Metamorphosis」だったが、その名のとおりに実現させたのは本当にすごいことと思う。広報大使に男女3人を選び、彼らの写真がフライヤーや会場壁面、無料配布の手提げ袋などよく目についたが、そのうちの一人ユ・シミン氏が韓国ではかなり有名な作家(元政治家、大学教授)で、図書展のイメージアップにつながったのではないかとも聞いた。しかし上記のような刷新が多々あったからだとしても、来場者倍増は普通なかなか達成できる事ではない。今まで来ていなかった人たちが足を運ぶきっかけになった何かもっと大きな理由があるはずだと主催者、業界関係者に聞いて回っても、皆上記のようなことを口にするばかりで釈然としない。一方で業界外の韓国人関係者たちは、今年は雰囲気が以前よりずっと良くなった、来場者が皆本当に楽しんで見て回っている印象を強く受けた、おそらく現在の韓国の情勢が大いに影響しているのではないかと言う。今回の図書展は、大規模デモで朴前大統領が退陣に追い込まれ、文大統領が就任という社会の大きな転換を迎えた中での開催だったが、話を聞いた誰もが「これから韓国はきっと良い方向へ変わっていくと思う」と口にし今後への期待と希望に満ち溢れていた。「もうおかしな事に騙されないようにいろいろな本を読み、自分の頭できちんと考えなければいけないと思うようになったから」「いい社会をつくれるように本を読んでもっと勉強しなければと思うようになったから」と考えるようになった人が多いため、本に対する関心が高まっているのではないか、とのこと。彼らの真剣なまなざしを前にすると、確かにそういう考えが来場者倍増の背景にあるのかもしれないと思われてきた。韓国を代表する作家でかつて民主化運動のリーダーでもあったファン・ソギョン氏のサイン会が行われていたブース周辺で、この図書展では未だかつて見たこともないほどの長蛇の列ができていたことからも、背景にある「今」の空気が存分に感じられた。

 


文大統領が表紙となった『Time』誌

 

外国ブース
 今年のテーマ国はトルコ。図書展示はイスラム圏ということでコーラン等宗教的なものが中心だった。
 今回は政治的な情勢を反映してか、中国ブースが不参加。THAAD配備を巡って中国が韓国への旅行を制限したり経済制裁をしたりしているが、例年出展しているこのブックフェアで不参加としたことで、来場者はやはり中国政府からのメッセージと受け取り不快な気分を抱いたようだ。代わりに台湾ブースが今年は二つも出展していたのが印象的だった。

 

商談ブース
 ソウル図書展はB to B にも力を入れ始めてきており、国単位でのブースでは、今回テーマ国のトルコや、イギリス、フランスブースなどで商談が行われ、日本ブースにいる我々も日本の作品の権利購入希望や翻訳出版助成プログラムに関する問い合わせをいくつも受けた。個々の出版社による1ブースが1mや2m幅の商談ブース出展はまだ日本の出版社のみで、コーナーの約半数が日本からの出展者で占められた。残りの諸外国からの出版社は皆招待によるもの。日本からは、ポプラ社が単独ブースで、光文社、トーハン、NHK出版、かんき出版、主婦と生活社、文藝春秋、モバイルブック・ジェーピー、岩崎書店の各社が商談ブースで出展した。どの社も平日の3日間は朝から晩まで狭い幅のブースにびっしりと人が詰まってミーティングを行っていた。韓国への版権輸出に関して各出版社のビジネス評価は非常に高く、引き続きの実用書・小説人気に加え、ここ数年買い控えが続いていたという児童書も盛り返し、さらに専門書、学術書なども堅調とのことだ。

 


商談ブースは平日朝から晩まで盛況だった

 

 なお今回商談ブース出展に際して「コンテンツグローバル需要創出基盤整備事業費補助金J-LOP4」を申請し、各出展者の費用軽減を図った。これから版権を売っていきたいという出版社は、ソウル図書展では手軽な1m幅から商談出展が可能なので、まずは日本書の需要が多い韓国を第一歩としてぜひ海外へ踏み出して行ってほしい。
会期中、岩波書店の馬場公彦氏が「岩波書店の100年と出版産業の未来」と題して講演を行い、同社のあらたな電子出版の取り組み等を聴衆にアピールした。

 

日本ブース
 独立行政法人 国際交流基金との共催で設けている日本ブース、今年は会場一番奥の列に位置する多数の日本の出版社商談ブースに隣り合わせる形で一番奥に配置されてしまったため開始前は人通りの少なさを心配していたが、始まってみたら前述のように次々と来場者が押し寄せ、まったくの杞憂に終わった。またブース代値上げのため従来の36m2から27m2へと面積を縮小せざるをえなかったが、販売コーナーには以前の大きさを割り当て、展示コーナーも販売コーナーもあふれるばかりの本で埋め尽くされた。他国ブースと比べて大きさもブースの造りもいたって質素だが、展示・販売されている本の魅力が日本ブースの一番の売りで、集客力は外国ブースで断トツのトップだ。毎回書いているが、韓国の人たちの日本書に対する関心はありがたいことに相変わらず非常に高い。教保文庫による販売は13,875,990ウォンで昨年より20%増。様々な分野の本を展示し、その多くを購入可能とできたのはよかったが、教保文庫の在庫のほうは狭いスペースに人が押し寄せ、選びやすい買いやすい環境とは言えなかったのが残念だ。
日本を訪れる韓国の観光客が過去最高数を記録している中、日本ブースでもガイドブックや旅関連本を今年のテーマにし、日本の美しい写真集から地元の旅雑誌まであれこれ展示した。

 




日本への関心の高さがうかがえる日本ブース


 小学館の飛び出す絵本、ポプラ社のおめん本、学研の触る絵本、ミキハウスの鍵で開ける絵本、キャラクターの手芸本など、前のテーブルにしかけ絵本やかわいらしい表紙のものを数点置いたところ、次々に買いたいと言われてあっという間に在庫がなくなるケースが多かった。展示棚に他多数の図書と一緒に展示されている時にはとりたてて注目されなかった本が、目立つ前の机に並べたとたんに次々に手に取られ、購入されていくのを見るのは本当におもしろい。何をどのように見せるかは、販売者として本当に一大事だ。
 目の不自由な人用に文字が点字でも書かれているだけでなく、絵も浮き出るように作られていて、指で触って感じることのできるバリアフリー絵本はそれまで見たことのない人が多かったのか、全ページをめくって触ってみる人、どのようにして作られるのか興味津々の人など反響が大きかったので、次回は日本児童教育振興財団やユニバーサルデザイン絵本センターなど発行団体にも協力してもらい、このジャンルをアピールしたり、韓国の団体と何か交流となる企画ができたらよいかもと思った。講談社のバリアフリー絵本『あらしのよるに』なども約3,000円と高額にもかかわらず次々に売れて行き、関心の高さがうかがえた。

 


バリアフリー絵本をさわってみる人


 日韓関係が政治的にますます悪化している中、日本ブースに対しての反応もどうなのかと心配していたが、今回も影響はないどころか、来場者倍増を反映して日本ブースへの来場者もひっきりなしで、本当にありがたいことと思う。常に多くの人だかりがある日本ブースを目の当たりにして、「日本書は韓国の読者に大変人気があり、大きな存在となっている。ぜひ日本にテーマ国になってほしい」と主催者より次回のテーマ国にと正式に要請もあった。もし実現できればもっと様々に日本の本をアピールできるのだが、業界としても国としても予算的に大変厳しい現状であるし、8年前にテーマ国として大々的に行った経緯もあるため、このお話は残念ながらお断りせざるをえなかった。

 

おわりに
 本番が始まってからはスムーズに事が進んだが、ブース設営業者も主催者事務局もそれまでが大混乱で、多くの事が注文したとおりに現場で準備がなされず、その点でのストレスもまた例年の比ではなかった。
 図書展は、国としての日本はさておき、こうして本を通して個人レベルで日本に関心を持ってもらえる、好きになってもらえる良い機会となっている。今年のアテンダントのイさんも、独学で日本語を勉強し、日本ブースで働けるまでになったきっかけは東野圭吾や宮部みゆきなど日本のミステリー韓国語版を読んで日本ファンになったことだという。今後も展示・販売をより充実させ、本を通しての両国関係をもっと太くしていけたらと切に願う。
 国際交流基金ソウル日本文化センターの山崎所長、勝田さん、チョンさん、シンさん、アテンダントのチョさん、イさん、日本からの舘野さん、落合さん、国際交流基金本部の湯橋様はじめ、皆様の御尽力に今回も心よりお礼を申し上げたい。

 
   
©PACE