一般社団法人 出版文化国際交流会 Publishers' Association for Cultural Exchange (PACE), Japan 本文へジャンプ


第25回サンパウロ国際図書展


報告:佐藤 佳苗(出版文化国際交流会)



名  称
Sao Paulo International Book Fair
会  期
2018 年 8 月 3 日(金) 〜 12 日(日)
会  場
アニェンビー展示会場
主  催
ブラジル図書評議会
面  積
80,000m2
出展社数
350社
入場者数
60万人

 

全  体
 ブラジルと言えば、大都市はサンパウロとリオデジャネイロであるが、図書展も毎年交互にそれぞれの地で開催し、ともに多くの来場者を集めている。またポルト・アレグレという同国南部にある都市の図書展にはさらに多くの人が訪れるとのこと。
 サンパウロの図書展は、街の中心部から外れ、さらに最寄り駅からも遠くて送迎バスを使用、バス乗り場まで往復ともかなり歩き、治安も良いとは言えない、という非常にアクセス不便な場所にもかかわらず、毎回60〜80万人が訪れる。会場はホールの地上階1フロアのみだが、広大な面積に装飾ブースや出来合いブースがずらりと並び、なかなか端にたどり着けない広さで壮観である。ブラジルの8月は真冬で、ホールは閉じた建物ではなく、両脇が外へ開いた造りになっているため、寒い日はかなり冷え込む。連日コートを着込みマフラーをしっかり巻いて、ブースに立った。朝9時から22時まで開いているため、平日は遅い時間ほど、そしてもちろん週末は身動きが取れないほどの賑わいとなる。週末は最寄り駅から会場までの送迎バス往復も、あまりの人出でそれぞれ1〜2時間行列に並んで待たされる。日本なら果たして、ここまで不便な思いをしてまで、一般読者が図書を目当てにやって来るだろうか。

 

 

 一見したところ、華やかな装飾をした大きなブースも多々目に付いてそうは見えないが、ブラジルはここ数年経済状態が悪く、出版界も勢いを失っていたとのこと。新たな出版社もいくつも立ち上げられるなど、しかし昨年から少しずつ持ち直しつつあるという。話を聞いた誰もが、2か月後の大統領選で選ばれる新大統領がうまく舵取りし、経済状況を改善していってくれることを望んでいた。街中の書店でも図書展会場のブースでも、図書に価格が印刷されておらず、価格表示もどこにも見当たらないため不思議に思っていたところ、店内の所々に設置されているバーコード読み取り機に図書のバーコード部分をかざし、表示される価格(=時価)を自分でその都度チェックするのだと教えられた。経済変動があるため、定価などというものはつけられないからと聞いて、なるほどと納得した。唯一、日本のコミックを翻訳出版している2社の図書には価格が印刷されていたが、日本の版元とそのような契約になっているからであろうか。

 

 

 

日本ブース
 独立行政法人国際交流基金(以下JF)と共催で設ける日本ブースでは、ここでも様々なジャンルを取り揃えて日本の図書を紹介した。サンパウロは世界一日系人が多く住む都市ということもあって、『マンガ沖縄・琉球の歴史』『琉球菓子』『沖縄語リアルフレーズ』など日系人のご先祖出身地として圧倒的に多い沖縄に関する、旅行ガイドブック的なものを越えた本を揃えた。日本語学習教材も多種用意。ちなみにブラジルでは公文式Kumonが40年以上前から展開しており、「日本語」「国語」講座を設けて現地の日本語教育に欠かせない存在となっているようだ。日本をヴィジュアル的に紹介する写真集やコミック等も、他所同様に大人気だ。

 


 図書展終了後にJFでちょうど「三島由紀夫再発見」と題した、三島作品の映画上映、読書会、専門家による講演会やパフォーマンスといった大規模な複合事業を企画していたため、その宣伝にも力が入れられていた。ポルトガル語へ翻訳されているのは文学でも川端、漱石といった古典が主で、現代ものに関しては村上春樹以外は桐野夏生、川上弘美等まだ少数に限られている。JFサンパウロセンターの洲崎所長は私の話を聞き、「当センターで、例えば年に1冊ポルトガル語への翻訳支援を行うことも検討可能と思われる。試しに候補作を複数出してほしい」とおっしゃってくださっている。JF担当者のグレースさんは、リオデジャネイロに近いパラチーというリゾート地で開催される国際文学フェスティバルFlipはブラジルでも有名で、そこへ日本から作家を呼べたら現地出版社への良いアピールになるのだが、と話していた。ポルトガル語への翻訳出版にご支援をお考えくださるのは大変有難く、まずはお礼を申し上げたい。

 


 「ブラジルの手塚治虫」と呼ばれるブラジル人なら知らない人はいない国民的漫画家で、間もなく日本で事務所を開設するというマウリシオ・デ・ソウザ氏とご挨拶をする機会があった。奥様が日系人で、同じく日系人であるお嬢さんをモデルにしたMonicaシリーズは、日本で言えばドラえもんのように、誰もが登場人物やストーリーをよく知り、街中でもいろいろな場所で起用されて見かけることの多いキャラクターだ。氏は日本へやってきた日系人子弟が言葉や習慣の違いで苦労していることを耳にし、Monicaマンガを使い両方の言語で日本生活ガイドブックのようなものを作成し、日系人子弟のいる全国の学校に配布する活動をしている。

 

 

 

ジャパン・ハウス
 サンパウロは世界で3か所、外務省により「日本の正しい姿、多様な魅力の発信、親日・知日派の育成」を目的とするジャパン・ハウスが設置されている場所でもあり、街中心部にあるJF事務所のすぐ近くに前年オープンしたばかりである。

 

 

隈研吾氏建築の、ヒノキを使用したユニークな外観。期間限定でテナントが入れ替わるという、一番目立つ店舗スペースには訪問時「MUJI」が出店。反対側はセレクトショップコーナーで、伝統素材を使いながらハイテク機能を持つスカーフやバッグ、シンプルデザインの和風テーブルウェアなどが展示販売され、その奥にライブラリー。洒落たブックカフェのような空間で、図書は貸出も販売もなし、その場で閲覧のみ。カフェも併設されている。天井まで達する本棚は見た目には美しいが、実際には背が高すぎてほとんどの本は残念ながら手に取れない。文字ものではなく、写真集などヴィジュアル的なものが大多数。ここでは図書はインテリアの一部とされていた。

 

 

2階の展示スペースは香りがテーマで、柚子やヒノキなどを説明、3階はUmamiについて。風呂敷専門店もあった。ジャパン・ハウスではすでに120万人が訪れ、催しも毎回大勢の人が詰めかけ大盛況で、「日本」発信に大きな役割を果たしつつあるとのことだ。何もかもがおしゃれで、日本発信のひとつの形として大いに結構と思うが、同様の施設を他の場所にも設けるために、本来的に必要な基本の文化予算がその分削減されるのであれば、それはどうなのか、というのが訪れた印象であった。

 

リベルダージ地区
 世界最大の日本人街(現在は中国・韓国系も増えて東洋人街と言われる)である市内リベルダージ地区には、鳥居や日本庭園などもあり、日本食材店や土産店、居酒屋や日本風パンやスイーツの店、果ては布団屋さんまでが軒を連ねている。そこには日本の書店も3件あるが、小規模日系書店が世界的に図書・雑誌販売では苦戦している中、すぐ近くに3件もが共存しているのはすごいことである。そのうちの一つ、太陽堂では一番の売れ筋が雑誌『文藝春秋』だそうだ。別のLivraria Fonomag竹内書店では店長のAsoさんにお話を伺ったところ、店の赤字を嘆きつつも「国費留学という形でお世話になった日本への恩返しだと思って、日々何とか書店経営を続けている」とのこと。毎月テーマ(訪問時は「老後問題」であった)を決め、ある書籍を詳細に取り上げ、さらに関連するお薦め書や新入荷書を多数紹介する全8ページの『竹内書店月報』を長年毎月印刷発行し希望者に配布している。通常の書店経営業務に加えての作業であるため、本当に大変なはずで頭が下がる。日本国内の書店と変わらぬ充実したラインアップだが、船便で到着まで3か月かかるので、国内での最新号発売から時差が生じる。国内の書店のように返品もできないので、在庫リスクも常に抱えている。

 

 

 


 現地では「普及会」と呼ばれている日本人会のような組織の、日本の図書を集めた図書館にもお邪魔した。現地日系人の皆さんや、日本からの留学生、駐在員たちが主な利用者だという。年配スタッフの方々は「最近の若い日系人たちは、日本語を勉強しなくなって困る」と嘆いておられたが、閲覧・学習用のスペースも広く確保されており、何人もが静かに読みふけっていた。移民についての資料を世界中から集めた「移民関係資料室」は、その充実ぶりから学術機関の研究所並みと言え、実際日本からも研究者がよく訪ねてくるそうだ。また明治大学マンガ図書館からコミックの寄贈も受けているとのことで、大量に揃っていた。現地ではサンパウロ新聞、ニッケイ(日系)新聞という邦字紙2紙が毎日発行され、現地のみならず日本のニュースも日本語で読めるため、それを目当てに毎日通ってくる人も多いそうだ。

 

おわりに
 現地スタッフの図書ご担当グレースさん、アナマルシアさん、ブースでアルバイトをしてくださったマリアナさん、圭さん達もすべて日系人でいらっしゃるとのこと。マリアナさんは2年後の東京オリンピックでボランティアを希望しており日本語学習に奮闘している最中。圭さんはまったくの初心者ながら展示されている折紙の本を見ながら自分でも簡単な折り紙作品を作り始め、数日後には本では物足りず専門家の動画を見て真似をしながら難易度の高い作品を次々生み出すまでになり、ブースを連日華やかにしていってくれた。

 

 

JFセンターの洲崎所長、高間木所長補佐、グレースさんには特にあれこれとお世話になった。彼らはもちろん、滞在中お会いしたすべての方々に、心よりお礼を申し上げたい。

 

 
   
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